平成の軌跡

東京2020 一番のメリットは ー 為末大 - 

「侍ハードラー」として注目を集めた元陸上選手の為末大さんに、新しい時代への思いを聞いた。

―新しい時代へ。来年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される。2020年へ向けて、期待できるところ、理想像は

 国が儲かっている時って、つまりはだれに利益を配分するかが話し合われると思うんですね。それはそれで大変ですが、損より得という話なのでまだ進めやすい。 ところが今の日本は拡大が止まって誰に我慢させるかを決めなきゃいけないなと思うんです。社会保障改革もその一つですよね。これは既得権益をはがして誰かが傷つく、みたいな話なのでとても大変なんだと思います。 成熟国家はだいたい合意形成が難しくなっていて、ブレクジットやトランプみたいなことが起きて、あれを見て民主主義というシステムをもどかしく感じている人も増えているんじゃないでしょうか。
 東京2020の一番のメリットは合意形成を買ったということだと思います。過去のオリンピックを見てみても、オリンピックがきたから何かをしたというよりもそもそもやるべきだったことをオリンピックをきっかけに推し進めたというのに近い。 日本は昭和の頃に最適化されたルールや仕組みがまだ残っているように思えて、それらを変えるためにオリパラを使うのが一番良いと思っています。 本番自体はきっと日本人ならすごく上手にやって成功させると思うんです。2020が終わったあとに昔みたいな世界2位の経済大国ではないけれど、世界の中でユニークなポジションをとった国になっている。オリパラはそのためのきっかけになってほしいです。
 今の日本は、引退間際の選手が試合に勝てなくなって落ち込んでいる状況に見えるんです。本当はコーチとか監督とか新しい役割を見つければ違う輝き方ができる。自信を取り戻して、次はこの役割を日本はやるんだと信じることができる。 それが2020までの一番大きな効果じゃないかと思います。

―日本が自信を取り戻すにはどうすれば

 世界から褒められることだと思います。30年前の褒められ方を求めても今の日本には難しいし、それって引退間際の選手が若作りしているように見えるんです。いぶし銀で老練な監督っていうかっこよさもあると思うんですよね。 2020を機に新しい褒められ方を見つければ、こっちでいいとみんな自信を取り戻すと思うんです。人生で絶対行ってみたい国ナンバーワンとか、子供を育てたい国ナンバーワン、でもあの国で子供育てるには枠があって大変だよね、みたいなのを目指すとか。 そういう方向だと思うんです。寛容な社会、宗教に関して寛容ということはすごく強みになるんじゃないかと思います。

―オリンピックパラリンピック、スポーツ界はうまくいくという話もあったが、具体的には

 スポーツど真ん中でいくと、メダル数は間違いなく最大になると思います。唯一落とし穴になりうるのは、過剰に選手たちが自分で自分に期待しちゃうこと。 僕は大阪の世界陸上で同じパターンでダメになったのでよくわかります。 こういうのを避けるにはオリンピックの直前1ヶ月に選手全員日本の外で合宿をしてそれで本番に帰ってきて何事もなかったように結果を出すというのがいいんじゃないかと割と本気で思っています。 実は日本のコーチングって結構レベルが高いんですよね。だからコーチド・バイ・ジャパニーズでどれだけメダルを取れるのかという基準を日本が新しく作ればいいんじゃないかと思っています。 僕はアジアの選手を支援していますが、世界最大のメダルを取らせたコーチを輩出する国に日本はなりえます。

画像提供元:共同通信社

―為末さん自身について。会社経営、アジア選手の育成など行っているが、今後は

 人間を理解したいという思いが強いので、そのためにいろんなアプローチでやりたいと思っています。今はスポーツのスタートアップの支援をしていますが、これを続けていきたいです。
 1964年の東京オリンピックで生まれたスポーツ産業といえば、ミズノ、アシックスなどのするスポーツに関してのメーカーだったと思うんですね。 今もそういったメーカーが支えてくれていますが、このままおんぶに抱っこでいいのだろうかと。2020を契機に新しい産業が出てくるようにしたいということが、今やっていることです。
 アジアの選手たちについては、いずれ常時選手村みたいなものを作りたくて。選手村ってオリンピック期間中にできますが、常時選手村があったら楽しいじゃないですか。 世界で今後必ず起きるのは温度上昇による夏のスポーツの禁止だと思っているんですね。これが都市部の一番の課題になると思っていて。日本は北海道、長野など満遍なくハードにお金を使っているので、すごくいい競技場があるんです。 そういうところに世界中から夏になるとサマースクールなどで来るという絵を描いています。

―もし今為末さんが8歳だったらまた陸上をやる?

 やっぱりやるんじゃないかなという気がしますね。現役の時はサッカーみたいなすごく有名になってお金が手に入るスポーツをなぜやらなかったんだろうと思ったりもしましたけど。 陸上は自分と向き合って、タイムというはっきりした目標を追いかけ続けます。ですからいやでも内省能力が高まって自分を含む人間への理解が深まるんですね。 これがなければきっと人間の見方も変わっていたろうなと思うと、陸上をやってよかったなと思っていますし、人生をもう一回やるとしても陸上を選ぶでしょうね、たぶん。

為末大
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。 男子400メートルハードルの日本記録保持者(2019年2月現在)。 現在は、Sports×Technologyに関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partnersの代表を務める。 新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『走る哲学』、『諦める力』など。